第1話 総合調査室設立

潜入!総合調査室

東京・丸の内――高層ビル群の中でひときわ目立つ、ガラス張りの巨大オフィスビル。

その中に日本有数の大企業、天陽ホールディングスの本社がある。

その最上階に位置する社長室は、外光が差し込むにもかかわらず、重厚で張り詰めた空気に包まれていた。訪れる者は自然と背筋を伸ばさずにはいられない。

「遅かったな、坂井凌」

社長、高柳重樹。70歳を超えた今もなお精力的で、存在感だけで空間を支配してしまう男だ。坂井は軽く頭を下げ、息を整えながら応えた。

「申し訳ありません、社長」
「ふむ……」

社長は机に置かれた資料をざっと眺め、低く重々しい声で告げた。

社長室の中には坂井と同じく社長にら呼ばれたであろう社員が並んでいた。

社長の高柳は並んだ社員を一通り眺めた後に重々しく口を開いた。

「君達に特命を与える。天陽ホールディングスとその関連会社の現状把握だ」

坂井は一瞬言葉を飲み込んだ。並んでいる社員たちもその言葉にピクリと眉を動かしていた。

現状把握――簡単に聞こえるが、天陽ホールディングスの規模は常軌を逸していた。

本社社員だけで2,500人。国内25社、海外15社、合計40社の関連会社。支店、営業所、店舗を含めれば総社員数は約12,000人に達する。更にパートやアルバイト、派遣社員などを含めると、日々人数が変動するので本部で正確な従業員数は把握できないほどだった。

これだけの膨大な人数と複雑な組織構造を社長が直接把握することなど、もはや不可能だった。

「君たちも知っているように、我が社の規模は社長である私が把握しきれないほどに成長してしまった。社員は多く、人事評価も社内政治が強まり正当な評価をされているのか。支社などの不正行為はないのか?企業規模が大きくなればなるほどに、そのような抜け目が出てきてしまう。しかし、それらを明らかにするのはとても困難だ。しかし、社内でも評判の良い君たちならそれが出来るのではないかと思ったのだ。」

社長のその言葉に全員が目を見開き、唾を飲み込んだ。

「つまり、君に……いや、君たちに、社長直下の組織を作り、この巨大な組織全体を“目”として潜入し、不正を暴き、正当な人事評価してほしいということだ。」

社長の声は部屋中に響き渡るようで、坂井の胸は熱を帯びた。特命。秘密。社長直下――その言葉だけで心が震えた。

「表向きには『業務支援課』として社内に公表する。各部署の人手不足を補う“ヘルプ要員”として扱われるだろう。しかし、君たちの本当の任務は、社長直下の『総合調査室』として、会社全体の現場を観察し、不正を暴き、評価を行うことだ」

表向きは普通の部署名。しかし内部では「総合調査室」。社長とメンバーだけが知る、秘密の特命部署の設立だった。

社長は資料を手に取り、社内全体の地図を広げる。東京、名古屋、大阪、福岡、北海道、沖縄……国内主要都市の支社、店舗、工場の位置まで細かく示される。その向こうには海外の関連会社まで網羅されていた。

「この部署は、全社の現場を把握し、社員の働きぶりを観察し、改善点を報告する。君たちは総合調査室のチームとして、誰も気づかぬ形で現場に入り込むのだ」

坂井は言葉を飲み込み、深く頷いた。巨大な組織の中で、誰も知らない現実を見抜き、社員のために動く――その覚悟が、今ここで試される。

社長は資料を片付けると、次に室長とメンバーを紹介した。

総合調査室 室長:野崎真司(男性・54歳)
冷静沈着なベテラン。潜入チームの舵取り役。社長の意図を全体に伝える中心人物。

ベテラン現場:佐伯進(男性・44歳)
豊富な現場経験を持つ。潜入作戦の戦略相談役。冷静で頼れる存在。

中堅調整役:村上徹(男性・35歳)
部署間調整や交渉を担当。潜入現場でのトラブル対応も得意。

潜入担当:鈴木航(男性・32歳)
変装・交渉・潜入作戦担当。機動力と即応力に優れる。

観察、分析担当:坂井凌(男性・31歳)
観察力・分析力が強み。正義感が強く、潜入調査の中心となる。

若手スピードスター:藤原亮太(男性・23歳)
情報収集能力と俊敏性に優れる。潜入調査の先鋭役。ややお調子者。

現場担当/ムードメーカー:小林葵(女性・42歳)
明るく面白いおばちゃんキャラ。現場社員と自然に打ち解け、潜入調査で情報を引き出す。チームの雰囲気を和ませる存在。

IT担当:田島優希(女性・28歳)
データ分析・情報処理担当。潜入時の情報収集・システム解析が得意。少し天然。

潜入担当/交渉:川村紗季(女性・29歳)
美貌と愛嬌を武器に人間関係を構築。潜入調査で男性社員から情報を引き出す。冷静でプロ意識が高い。

社長はひとりひとりを見渡し、静かに言った。

君たちには期待をしている。最善を尽くしてくれたまえ。」

全員の背筋が自然と伸びる。言葉に込められた重みが、心に突き刺さった。

部署長・野崎の号令で、全員は軽く自己紹介を行う。

「田島です。データ担当です。怪しい動きは全部お任せください」
「葵です。現場目線で社員と打ち解けます。明るく行きますよー!
「川村紗季です。必要な情報は自然に引き出します。よろしく」
「坂井凌です。観察と分析なら負けません」

初対面ながら、微妙な距離感と緊張感の中で軽い笑いも生まれた。互いの個性が少しずつ浮かび上がる。

明日から潜入調査が始まる。表向きは業務支援課として活動する。しかし、本当の任務は総合調査室として、誰も知らない現場を見抜き、改善の指針を示すことだ

坂井は心の中で拳を握る。巨大な組織の奥深く、社員の知らない現場を調査し、正しい評価を届ける――。その覚悟が、業務支援課/総合調査室という新しい戦場で試される日々の始まりだった。

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