枯れ果てた大地。
雲は黒く、乾ききった風が吹き荒れ、葉を付けていない枯れた樹木が立ち並ぶ。
湖や川の水は透き通っているが、少し赤味を帯びている。
そんな魔界の中心にそびえる魔王城。
その最深部の王の間で今、勇者と魔王の一戦が行われていた。
……
あと一撃分しか体力がない
次に全てを賭けるしかない。
勇者はそう感じていた。
全身には数え切れないほどの裂傷と擦傷があり、それらの痛みは何もしなくても時間の経過と共に体力を奪ってゆく。
これ以上体力を消費する前に決着をつけなければ。
勇者は自身の剣に全ての力を注いでゆく。
剣は青白い光を帯びてゆき、その光は徐々に力強くなってゆく。
呼吸を整え、魔王を睨みつける。
魔王も既に満身創痍。
実力はほぼ五分五分だった。
それにしても、まさか倒すべき魔王が女性だったとは夢にも思っていなかった。
もっとゴツい相手を想像していたのに、この王の間に待ち受けていたのは、人間でいえば20代前半にしか見えない華奢な女性だった。
見た目も肌の色がほんのり紫のような色をしているだけで人間と変わりはない。
そんな女性相手では多少気は引けたが、闘い始めてから、その見た目とは裏腹の驚異的な身体能力と魔力を目の当たりにして、考えを改めた。
目の前にいるのは、可憐な女性ではなく倒すべき魔王なのだと。
勇者は剣に込める力を更に強めた。
女魔王も勇者がその1撃に全てを賭けたことを察し、手に持っている黒き剣に力を注いでゆく。
剣は漆黒の光を帯びてゆく。
お互いの剣に込めた力は大地を、大気を揺るがし地鳴りが響き始めた。
勇者はふと後ろを気にした。
そこにはここまで共に闘い抜いてきた仲間が4人と魔王の側近2人が倒れていた。
4人は魔王の側近との激しい死闘の末なんとか側近を打ち倒したものの、あまりのダメージで動けなくなり、その場に倒れていたのだ。
この仲間達がいなければここまで来れなかった。
この仲間達が側近を引きつけてくれたことで魔王と1対1での闘いを挑むことができた。
今この1撃を放ち、魔王の渾身の1撃と衝突をすればその衝撃はおそらく瀕死の仲間達に及ぶ。
下手すれば仲間全員が命を落としかねない。
しかし魔王を討つ最後のチャンスは今のこの1撃だけ。
今ここで放つべきか。
勇者は苦悩に顔を歪めた。
「…気に……する…な。」
仲間の魔道士が傷ついた身体を必死で起こしながら言った。
「みんなは俺が魔法壁を作って守るから」
魔道士トロワス
性格は悪いが、言ったことは必ず守ってくれる、いざという時に一番頼りになる仲間。
トロワスがそう言うなら必ず守ってくれる。
勇者の迷いは消えた。
「いくぞ!魔王!これで…この1撃で終わりだー!!」
勇者は猛スピードで魔王に向かっていく。
魔王もこれに反応し同じく勇者に向かっていった。
「うぉぉーーぉ!!」
ガキィーーン
光の剣と漆黒の剣、2人の剣が激しくぶつかり合う音が響いた。
その瞬間
2人の横にソフトボール程の黒い球体が現れた。
その球体は急激に大きくなっていく。
「な…なんだこれは。体が吸い寄せられる。お前の魔術か??」
激しい鍔迫り合いをしている勇者と魔王の体がどんどんと黒い球体に引き寄せられてゆく。
鍔迫り合いをしながら堪えるものの、球体はどんどんと成長をしていき、引力をましていく。
「違う。私にこんな魔術はない。勇者。一旦この場を離れた方が賢明だ」
2人は鍔迫り合いをやめ、その場を離れようとするが、それよりも早く球体は成長をし、更に激しい引力で2人を吸い寄せる。
「くっ。。もうだめだ。これ以上は堪えられない」
勇者と魔王はその球体に飲み込まれていく。
2人を飲み込み終えると、その球体は突然として消えていった
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